「泣きっ面に蜂」なシャーロットの町と、板挟みになったマイケル・ジョーダン(ASG開催中止と「公民権運動」のお勉強)

わけのわからない、ちょっとふざけた見出しを思わず付けてしまったが、今回は少し真面目なことを書く。基本的には行ったこともない土地で暮らす、会ったこともない人たちの話だから、思い切り想像を膨らませて書く。その点をお含みいただいた上で読んでいただければ幸いである。

昨日記したシャーロットでのNBAオールスター戦(ASG)開催中止の決定に関する話に対して、下記のようなコメントをいただいた:

でもなあ、女子トイレに男が入ってくるなんて…
たとえ女装しててもなあ。

NBA事務局の判断に関する核心の部分—LGBTの権利制限(あるいはLGBTの人たちに対する差別容認)になぜNBAが異議申し立てしているのか、という点をあらためて考えさせられる、なかなか興味深い指摘と感じられた。そこで、まずはこの「ストレートな反応」(?)から想起されたことをしばらく記す。

米国でとくに1960年代に「公民権運動(civil rights movement)」というのが盛んだったことは、たぶん高校の世界史あるいは公民の授業などで習ったかと思う。「公民権運動」という言葉を見聞きして、反射的にマーティン・ルーサーキング・ジュニア(キング牧師)のことや、あるいはピート・シーガーやジョーン・バエズの歌った「We Shall Overcome」のメロディーが頭に浮かんでくるような年輩の方にはいわずもがなだろうが、簡単にいうとこれは「黒人(を中心とする有色人種に対する)差別撤廃に向けた社会運動」のこと(そういう説明でたぶん間違いないかと思う)。この運動の結果、公民権法(Civil Rights Act)というのが1964年にでき、それで人種差別を認める南部諸州の法律(ジム・クロウ法=”Jim Crow law”と総称されるもの)がようやく廃止になった。

このジム・クロウ法の適用例(?)としてよく引き合いに出されるのが、バスやレストラン、水飲み場、あるいはトイレの(人種による)区別・・・というのも、やはりいわずもがなのことかもしれない。

そもそも、そんな法律がなぜつくられたのか、あるいは約90年もの長い間存在し続けていたかといえば、やはり「自分たちの使うトイレ(やその他諸々の施設)に黒人が入ってくるなんて…」という感じ方が南部の白人のなかにあったから、ということになろう(無論それだけではないはずだが)。

こういう生理的な反応、人間という生き物に内在するはずの異質なものへの反発あるいは警戒心みたいなものは、恐怖心(自己保存本能?)と背中合わせになっている分だけ余計に厄介で、簡単には修正できない。けれども、差別を認めないというのは、片方の当事者(差別する側)に対して、そんな生理的な反応を頭(=合理的な部分?)を使って修正しろと求めていることだと、私にはそう感じられる。

あるいは、ジェリー・スタックハウスのコメント(後述)から推察すると、LGBT差別を許容するような法律をつくった(またはそれを支持した)「信仰心の厚い人たち」からすれば、そもそもLGBTのような存在を社会的に認めるほうが間違っていて、自分たちは当然のこと、正しいことを主張しているのに過ぎない、といった感じなのかもしれない。

自分たちが正しいと教えられて育った、正しいと信じながら日々暮らしていることを捨てるというのは、人としての根幹にもかかわることだから、当然簡単にはいかない(でなければ、同姓婚の問題がこじれて連邦最高裁まで持ち込まれることもなかっただろう)。しかし、だからといってそれを放置していては、問題はなにも解決されないし、社会はなにも変わらない。

いまNBAやWNBAの選手たちがさかんに異議申し立てをしている米国の黒人社会と警察との軋轢の問題も、あるいはとくに欧州で顕在化しているイスラム教徒との軋轢という問題も、「暴力を通じた異質なものの排除」という点で通底しているように感じられる。

昔もいまも黒人選手に大きく依存するNBAが、NFLやMLBなどよりも率先して、積極的にLGBTの問題に関する選手への教育(啓蒙活動)を行ってきたというのは、例のジェイソン・コリンズのカミングアウトの際に広く報じられていたことだが、その背景にはやはりこうした過去の出来事の積み重ねがあったはずである。また、アダム・シルバーも(その前のコミッショナーの)デビッド・スターンもともにユダヤ系だから、ホロコーストやそれに繋がったユダヤ人に対する差別を意識していないわけがないとも思える。

いずれにしても、異質なものを思わず排除したくなる気持ち—いわゆる「不寛容(intolerance)」の問題というのは甚だやっかいで、誰にとっても他人事では済まされない問題であることはほぼ間違いない。同時に、何かいい解決方法がすぐに見つかるとも思えないが、それでもいつか(たとえそれがずっと先のこと、自分がこの地上から姿を消した後のことだとしても)克服しなくてはならない問題だとも思う。

脱線ついでに記すと、子供の頃アラバマの田舎町で、クークラックスクランが黒人の家の庭で十字架を燃やしているところに遭遇し、ひどいショックを受けたというティム・クック(アップルCEO)が、ロバート・ケネディとならんでキング牧師を自分のヒーローと見なしていること、そしてLGBTの権利擁護に積極的に取り組んでいることは単なる偶然ではないと思う。

公民権運動のことに話を戻すと、この50年間で大きく変わった部分もあれば、まったく変わっていないように思える部分もある。バラク・オバマの大統領就任が前者の代表例だとすれば、後者の代表例はここ数年フロリダやニューヨーク、オハイオ、ボルチモア、ミネソタ、ルイジアナといった各地で発生した黒人が被害者となった死亡事件だろう。

先日、ミネソタやルイジアナで起こった警察による黒人射殺、それと前後してあったダラスでの黒人による警官隊襲撃などを受けて、The Undefeatedがグリズリーズ(MEM)の新HC、デヴィッド・フィズデイルの話を載せていた。

HOW NEW MEMPHIS GRIZZLIES COACH DAVID FIZDALE SURVIVED SOUTH CENTRAL – The Undefeated

この記事のなかには、LAのサウスセントラル地域で育ったフィズデイル(現在42歳)が高校生だった当時、クルマに乗っているところを警官に止められ身体検査を受けるといったことが週に3、4回はあったとか、誰もがクルマをもてるわけではなかったから学校の登下校も自ずと乗り合いですることになったが、警官は単に「黒人の若いヤツが何人もつるんでいるから」というだけで停車を命じたとか、なかには手荒い警官もいて、フィズデイルらを車体に叩きつけると、指を頭の後ろでねじり上げ(あまりの痛さに泣きたくなった)、挙げ句の果てには路上に45分間も跪かせておいた(頭の後ろに腕を上げさせたままの姿勢で)とか、そういった話が書かれてある。

こういう話を読むと、「この社会システムは破綻している。それを直すためにやらなくてはならないことがたくさんある」などとするカーメロ・アンソニー(NYK)の発言の意図もよく感じ取れる気がする。

Carmelo Anthony: ‘The system is broken. It takes a lot to fix it’ – The Undefeated
カーメロのコメント自体は、ボルチモアで昨年4月にあったフレディ・グレイ=Freddie Grayの死亡事件で起訴されていた6人の警官のうち、4人めの警官にも無罪の判決がくだされたことに対するものだが。ついでにいうと、起訴された警官のなかに黒人の警官も交じっているというところに、この件の厄介さが余計に感じられもする。

☆☆☆

シャーロットでのASG開催中止については、その後いくつかの記事やNBA関係者のコメントなどを目にした。それで改めてわかったのは次のようなことだ。

1)LGBT権利拡大の条例を制定していたシャーロットの町

今回の開催中止に至った直接の原因とされるノースカロライナ州の州法「House Bill 2(HB2)」について、The Ringerの記事(クレア・マクニア=Claire McNearというライターの手になるもの)の中に次のような成立の経緯に関する説明がある。

HB2が今年3月に発効したことで、同性愛者や性転換者に対していくつかの権利拡大を認めたシャーロットのある条例が意味を失った。HB2に撃墜されたこの条例のなかには、LGBTの人たちに自分が属すると思う性別用のトイレを使う権利を認める条文が含まれていた。

HB2, signed into law in March, struck down a Charlotte ordinance that extended certain rights to gay and transgender people, including the right to use the bathroom of the gender with which one identifies. The law also established protected classes of citizens that do not include sexual orientation or gender identity.

Moving the All-Star Game From Charlotte Shows How the NBA Views Itself – The Ringer

これと同様の記述が、SI.comにあるアンドリュー・シャープの記事のなかにもある。HB2のなかには、LGBTの人たちがそれを理由に差別を受けても州の方針として保護はしない、あるいは各自治体がこれに反するような差別禁止の規準をつくることは認めないといった内容の項目も含まれている、などとある。

The HB2 law only exists because Charlotte passed its own anti-discrimination measure, as the city council sought to expand existing laws to prevent bars, restaurants, hotels, and taxis from discriminating based on gender or sexual orientation.

The law also establishes a statewide anti-discrimination policy that refuses to recognize LGBT citizens as a class that would be protected from discrimination under the state policy. It prevents cities and counties across North Carolina from passing local anti-discrimination standards, should cities like Charlotte seek to broaden laws to protect gay citizens from discrimination.

The NBA chooses sanity, moves 2017 All-Star Game out of Charlotte – SI.com

なおThe Ringerの記事中には「コーチK(=マイク・シャフェススキー、同州内にあるデューク大”Blue Devils”のHC、チームUSA HC)やマーク・ゴットフリード(Mark Gottfried、ノースカロライナ州立大のHC)も、HB2に反対する考えを口にしていた」といった一文もある(ふたりとも黒人選手とうまく付き合っていかなくてはならない立場にあるという点を差し引いても・・・)。

Earlier this week, Duke coach Mike Krzyzewski and NC State coach Mark Gottfried both spoke out against the law in interviews with USA Today.

Moving the All-Star Game From Charlotte Shows How the NBA Views Itself – The Ringer

SI.comのシャープは、コーチKは共和党支持者で過去にオバマを批判したことでも知られる人物。そんなコーチKでさえ「HB2は実にひどい法律(”embarrassing bill”、)」と言っている、などと記している(この場合のembarrassingはどんな日本語に訳すのがいちばんいいのか?)」

Team USA coach Mike Krzyzewski is a lifelong Republican and noted critic of Barack Obama, and he was unambiguous about the North Carolina law. “It’s an embarrassing bill,” Krzyzewski told USA Today in Las Vegas this week. “That’s all I’m going to say about it.”

The NBA chooses sanity, moves 2017 All-Star Game out of Charlotte – SI.com

2)板挟みになったホーネッツとマイケル・ジョーダン

Wikipediaの「NBA All-Star Game」のページをみると、前回シャーロットでASGが開催されたのは1991年—いまから25年も前のこととある。この25年間にシャーロットで起こったいろんな出来事—旧ホーネッツのニューオーリンズ移転(2002年)、ボブキャッツの新設(2004年)、チーム名の回復(2014年)、それにチームの売却やオーナーの交代などを思い出すと、地元にとってASGの開催はまさに「念願の」イベントという感じがする。

そうした経緯もあってのことだろう、ホーネッツの町(市議会?)はASG開催が決まったことを受けて、タイムワーナーケーブルアリーナ(ホーネッツ本拠地、TWCA)の回収費用として3350万ドルの予算拠出を承認していた。ところが、今回ASG開催が中止になったことで、当初見込んでいた1億ドルの収入(ASG開催で地元に落ちるさまざまなお金)を棒に振ることになった・・・。SI.comのアンドリュー・シャープの記事には、そんな一節がある。

The decision comes two years after the city approved $33.5 million for improvements to the Hornets arena. It will reportedly cost the city $100 million in lost revenue.

The NBA chooses sanity, moves 2017 All-Star Game out of Charlotte – SI.com

つまり、シャーロットの町を一個の人格としてみると、正しいと思ってしたLGBT権利拡大の条例が州議会によるHB2制定でひっくり返され(やぶ蛇に)、さらに自腹を切って出した3350万ドルのお金も無駄遣いに終わり、という結果で、まさに「泣きっ面に蜂」の状況と思えてしまう。

なお、上記のThe Ringer記事にも、これと同様の説明を含んだ一節があり、そこには「今回の騒動でいちばん割を食ったのが(=もっとも運の悪い犠牲者は)シャーロットの町・・・。シャーロットではHB2は極めて評判が悪く(”deeply unpopular”)、HB2に州知事が署名した後には、住民や職員の多くが団結し、「#WeAreNotThis」というハッシュタグを使って抗議していたほど・・・。TWCAの回収に3350万ドルを注ぎ込んだ挙げ句に、結局手許に残ったのは実に不快な州法だけ・・・」といったことが書かれてある。

An unfortunate casualty in all this: Charlotte, where HB2 is deeply unpopular; after the bill was signed, many of the city’s residents and officials united under the hashtag #WeAreNotThis. The loss of the All-Star Game is bound to sting: After pouring $33.5 million into Time Warner Cable Arena with an eye toward the 2017 showcase, the city is left with an odious state law, and will be denied the jobs, exposure, and estimated $100 million that the Charlotte Regional Visitors Authority predicted the event would have brought in.

Moving the All-Star Game From Charlotte Shows How the NBA Views Itself – The Ringer

また、ホーネッツとオーナーのマイケル・ジョーダン(MJ)が、NBAと地元(州議会)との間で、板挟みになっていた様子を伝える文章も目にした(残念ながら情報ソースが見つからないが)。4月にアダム・シルバーがASG開催中止の可能性を口にして、HB2の修正(または廃棄)に向けて圧力をかけて以来、NBA事務局とホーネッツとは毎日のように連絡を取り合っていた・・・そんな文章だったかと思う。

3)当事者(黒人側)の見方が伝わってくるジェリー・スタックハウスのコメント

ESPNのアラシュ・アルカジ(?、Arash Markazi)が、クリス・ポール(CP3)やステファン・カリーなど、ノースカロライナ州(NC)に縁のあるNBA関係者のコメントをいくつか拾っているが、そのなかでとくに注意を引いたのが、ジェリー・スタックハウス(現TORのAC/PHL、DET、DALなどでプレイ)の下記のコメント。

「シャーロットでのASGが中止になったのは非常に残念。ぜひともやりたかったが、NCはバイブル・ベルトにあり、彼ら(サザン・バブティストの連中)は信仰心が強いから(しかたがない?)。私自身は必ずしも彼らの考えに同意するわけでもなく、何かを他人に押しつけようとも思わないが。彼らには彼らの信じるものがあり、私はあの地域で育った。サザン・バブティストの連中は・・・主流の文化やその他のなにかが自分たちを変えることは許さない・・・私はアダム・シルバーの判断を賞賛するが同時に自分の地元でASGが開催されなくなったことに落胆している」などといったことが書かれてある。

UNC(ノースカロライナ大)からNBA入りしたスタックハウスがかつて「第2のMJ」などと期待されていた選手であったこと、また現役の後半では選手組合の要職(たしか副会長だったか)を務めていたことを念のため記しておく。

4)ホーネッツ・オーナーのなかからも反発の声

ESPNには「フェリックス・サバテス(Felix Sabates)というホーネッツの少数オーナーが、NBAの判断を痛烈批判」という見出しの記事も出ている。細かな内容の説明は割愛するが、マイケル・ジョーダンにとってはさらにひとつ厄介の種が増えた、という感じも伝わってくる。

Hornets owner Felix Sabates blasts NBA, Charlotte – ESPN

なお、Wikiにある”Felix Sabates”の項目をみると、キューバ系移民、1960年のキューバ革命後(本人が15歳の時)に米国に移住、共和党支持者といった記述がある。

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